ねがいごといろいろ

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マリウス雑感①

2018年上演の『音楽劇 マリウス』について、感想、その他もろもろつらつら思ったこと。箇条書きに近い。映画やその後の話を見ずに、劇だけを見て話しているのでご了承ください。

全体的にマリウス、お前~~~!(オブラート)みたいな感想なのでそちらについてもご了承ください。

 

 

主人公である、マリウスについて。

マリウスはマルセイユの街で、船乗りや街の人々を相手に商いをするカフェの跡取り息子。マルセイユの街を愛し、幼馴染のファニーと相思相愛でありながらも、どこか毎日に退屈を感じ、海への、旅への憧れを抱き続けている。


マルセイユの人々が歌う歌の中で、「哀れなお前」と言われるマリウス。

マリウスは哀れな男だし、愚かな男だなとも思います。というよりも、マリウスはきっとどこまでも青く、劇中の誰より子供だったのかなぁ、と。

一幕ではマリウスもファニーも互いに互いの思いをぶつけ合うような若い二人の恋が描かれていましたが、一幕でマリウスに抱かれたこと、二幕で母になったことで、ファニーの方は少しずつ大人の女性になってしまう。一方でマルセイユを出たマリウスは、置いてきたファニーへの熱情、故郷への思慕を燻らせたまま、立ち止まっているように見えました。

 

一幕のマリウスは、気のいい、働き者の頼れる青年として描かれています。ファニーにとって頼れる兄のような存在でもあるマリウス。贔屓目もたっくさんあるんですが、照史くん本人の愛嬌とあいまって、男性的な色気がありつつも可愛らしい少年性も持ち合わせた、様子がいい、とにかく様子がいい、色男だな~~~!と思います。よっ、色男!

一幕冒頭で帆船の模型を片手に航海を夢見るマリウス。その顔は無邪気で、希望にあふれていて、個人的には劇中で一番幸せそうだったんじゃない?と思うくらいの笑顔でした。(ショータイム除く)けれどもピコアゾーの計らいでその夢が現実味を帯びてくるにつれ、同時にファニーからのアプローチを受けるにつれ、夢と愛の狭間でマリウスは苦しんでいく。

 

私はずっとマリウスのことをクズだと言って憚らないけれど、マリウスがファニーのことを想い、自分の海への憧れと天秤にかけてファニーを選ぼうとしなかったことは誠実だったと思うし、旅への夢を押し殺してファニーを選ぼうとしたことも本当だったと思います。一幕だけ見るとマリウスの行動、そこまで不思議には思わないです。マリウスが結局出て行ったのも、ファニーが焚きつけたからというのも大いにあるだろうし。まぁあんな大嘘、あっさり信じるなよ!という気持ちはあるけれど。

歌でも語られているとおり、マリウスの海への憧れは決して穏やかなものではなく「熱病にも似た」苦しみと葛藤を伴うものとして描かれていて。それがあの、アンダルシアへの憧憬を語り、フラメンコを踊る時の怒りに燃えるような表情に繋がっていたのかなぁ。ファニーはきっと、マリウスの腕の中でひと月を過ごすうちに、その燃え立つような焦燥を感じ、今はそばにいたとしても、一度火が付いたならすぐにでも自分の目の前からいなくなってしまうに違いないという、諦めを抱いてしまったのかな、と思います。

 

で、問題は二幕だと私は思っているのですが。

マリウスからセザールに送った手紙。「憧れの海の上で僕は今幸せです。だから心配しないでください」なんて、形式的で出てった人のテンプレートみたいな文章が書いてあって。それはいい。それはいいんですけれども。その後、舞台はマリウスの独白へと続く。手紙には綴らなかった、本当の気持ちを切々と歌い上げるマリウス。狭い船室の中、丸窓にファニーの幻影を見て毎夜涙を流すマリウス。

 

…いや、海の上もうすこし楽しんでよ!?

 

背中を押すことを選んだのはファニーだとは言え、ファニーのウソを信じて喧嘩別れのような状態で出て行ったのだとはいえ、あまりに、あまりに身を引いたファニーが報われない。

ファニーは「マリウスの幸せが私の幸せ(だからマリウスを海へ行かせた)」と歌うけれど、当のマリウス全然、もうびっくりするほど幸せそうではなくて、それどころか毎晩泣き明かしてるらしいんですよ。いやもう少しでいいから幸せそうな顔してくれよ。熱病はどうしたんだよ。熱下がってんじゃないわよ。

 

そして一年半後、船がドッグ入りしたことを契機にマリウスはふたたびマルセイユの街へと降り立つ。


セザールに「何しに来た」と言われ、「父ちゃんの身体が心配でさ。あとファニーにもおめでとうと言ってやろうと思って」と答え、父にファニーにどのツラ下げてそんなことを言いに来たんだと怒られるマリウス。「久しぶりに帰ってきたのに、そんな言い方ないじゃないか…」と悲しげに零す声が、すごく子供っぽいんですよね。

二幕終盤のマリウスは、終始子供じみているなと思う。一幕よりもむしろ子供っぽい。父への甘えが見える悲しげな声も、どうしていいかわからなくなったときの惑う声も、ファニーと子供の権利を主張するときすらも、子供の癇癪じみている。


マリウスは自分が子供の父親であり、正当な権利があるというけれども、その姿は人の親からは程遠い、彼自身が子供に見えて。坊やへ無償の愛を注ぐパニスや、母であるかはさておき、大人の女性になったファニー、そして彼の父であるセザールと対比されることでより一層そう見えて、冒頭でも言った通り、マルセイユを離れた間、彼の時計は止まったままだったのかなぁと思いました。

 

あとそもそもファニーの子供の父親が自分だとわかったときのマリウス。「ファニー、本当は俺のことが好きなんだ。そうだろ?今でも俺のことが好きなんだ」とのたまった上に(事実だけど!)、「キスしていいか?」って聞いて、ファニーが一応拒んでも強引にキスをするところ、シンプルにクソ野郎~~~~~!って感じなんですけど、マリウスにしてみたら、あれが一度は手放したファニーを手に入れる最後のチャンスだという思いだったのかなぁ。一年半ファニーを手放したことを毎日後悔して、それでもファニーは他人のものになってしまって、そのファニーの心が本当は自分にあり、なおかつ子供も自分の血をわけた子だと知ったとき、もう是も非もなくなってしまったのかもしれない。

それとマリウスの中でどこか、パニスを馬鹿にするというか、嘲る気持ちがあったと思うんですよね。若く美しいファニーに不相応なパニス。金でファニーを手に入れたパニスパニスの愛は不誠実で、自分の愛は真実だという気持ちがマリウスの中であったんじゃないかと思います。セザールが「人の女房や子供を盗むやつはいなかった!」と怒鳴りつけたのに「盗むなんて、そんな…」と答えたり、ファニーと子供を連れて行こうとするマリウスにファニーが「法律が許してくれないし、神様だって許してくれないわ!」というセリフがありましたが、逆にマリウスは自分とファニーの愛は正しい、神様は赦してくれると思っていたんじゃないかなぁ。勝手な想像だけれど。

 

話が前後しますが、パニスが大慌てて子供を病院に連れていくとき。オノリーヌやクロディーヌが「あの人、本当に子供のことになるとおかしくなっちゃうんだから」などと言って出ていくのを聞きながら、マリウスの表情がどんどん暗くなっていくんですよね。本当はあの時にわかってしまったんだろうなぁって。パニスが本当に子供を愛していること。今このマルセイユにとって、自分こそが異分子であること。自分がファニーや、子供をもう手には入れられないこと。

それでもファニーを連れて行こうとするマリウスに対し、ファニーは「あの人を裏切ることはできない」と拒み、パニスがファニーの気持ちを思って身体に触れることはなかったことを告げる。

そこでマリウスは自分の「あやまち」を悟り、父親に別れを告げ、愛するマルセイユを、ファニーの元を立ち去る。街の人々が「何処へ行く」と歌うけれど、マリウスは本当に一度の欲望で、一度のあやまちで、帰るべき場所や愛する人、そのすべてを失ってしまった哀れな男だったんだなぁと思います。それを見送る、子供を手に入れたはずのパニスの表情もひどく陰鬱で、哀れむようなものなんですよね。この結末を望んでいた人、誰ひとりいなかったのになぁと思うと、遣る瀬無い気持ちになる。


海への憧れというか、街の外への渇望というのは、あの街で暮らす若い男は誰もが抱くものとして描かれているように思いました。マルセイユ自体は平和で、のんびりとした街でありながら、港町なので非常に外の世界に近い場所でもある。マリウスの外に出て行きたい思いに、マリウスより年上の男性たちは概ね「わかる気がする」「私にもあった」と理解を示す。それでもその欲望と折り合いをつけてマルセイユを選んだ街の人々と違って、マリウスはそうすることができなかった。一方で、折り合いをつけてマルセイユで暮らすことを選んだのがプティだったのだと思います。

別にマルセイユで暮らすことが正しいわけではなくて、マリウスのその選択自体は責められるべきことでは無いのだけれど。折り合いをつけて止まるか、全てを投げ出して本当に全てを捨てるのか、その非情な二択しかなかったんだろうなぁ、本当は。どちらも選べなかったから、ああいう結末になってしまったのかなぁ。


私はその後、マリウスはマルセイユの地に戻ることはない、少なくとも彼はこの時点では今生の別れだと思って立ち去ったんじゃないかなぁと思いました。その後の話があるのも、その内容もうっすら存じているのですが、観たときに思った感想として。

 

 

あとこれは余談ですが、最後、オノリーヌやプティと言った人々も含めて「マルセイユの人々」という舞台装置として歌を歌う構成、そこに加わらないマリウス、ファニー、セザール、そしてパニスという構図が、物語を浮き彫りにしていて個人的には好きでした。名前のあるキャラクターたちも、マリウスに特別な感情のあるものたちも、すべてマルセイユの人々という一つの風景に徹するっていうのが演出として面白かったです。そういう意図じゃなかったらごめんなさいなんだけど。

 

 

拝啓、太陽の国、あるいは松竹座へのファンレター。

拝啓、桐山くんへ。

 

梅雨も明け、早くも太陽の眩しい季節になりましたがいかがお過ごしでしょうか。

ファンレターには書きそこねたなんだか湿っぽい自分語りをここに記しますこと、お許し下さい。

あなたのためでは全然ないけれど、私は私のためにこうして筆を(PCだけど!)取ることにいたします。

 

 

4月4日、「マリウス」の代役に桐山くんが抜擢されたとのNEWSが流れた。私がそれを知ったのは、友人からのLINEだった。本当に驚きすぎて、うれしくて、冗談抜きに貧血を起こして崩れ落ちた。鉄分不足、ダメ、絶対。

 

主演、主演、桐山くんが、主演!

諸々の事情や数々の思いはあれども、正直桐山くんの1ファンとしては本当に嬉しかった。昨年の舞台で見た桐山くん。ラジオでミュージカルをやりたいと口にしていた桐山くん。楽しそうにお芝居の話をする桐山くん。いろんなことが頭の中を駆け巡ってクラクラした。あと大阪と聞いて、交通費のことを考えて別の意味でもクラクラした。

 

 

私は、松竹座時代の桐山くんのことを知らない。

 

私が転げ落ちるように彼のファンになったのは2年と少し前のこと。それまでジャニーズのファンですらなかった私は、桐山くんのことはおろか、「関西ジャニーズjr.」なる集団が存在することすら知らなかった。そもそも、ジャニーズjr.って小さい子だけじゃないの?大きい子もいるの?みたいな世界の人間だったのだ。

そんなわけで当然、ジャニーズに縁がなく、ついでに関東住みだった私はJr.時代の桐山くんのことなど知る由もなかったし(厳密に言えばごくせんを見ていたはずなのだが、本当に記憶にない)、Jr.時代の映像としてテレビで流れたり、ネット社会で拾い見できるのはほとんどが少クラなどのテレビの映像で、松竹座に立つ桐山くんを唯一映像としてみたのは、親しくなった子が厚意で見せてくれた少年たちの映像くらいだった。

 

知らないことについて嫌な思いをしたことがあるわけじゃない。

知らないことを誰かにとやかく言われるようなことは有難いことに決してなかったし、アイドル本人たちは「いつ好きになろうがファンはファン」だと繰り返し言葉にしていた。中間くんなんかは特にストレートで、度々ファンレターで「昔からのファンじゃなくてごめんなさい」という言葉を受けること、そういうファンのためという意味も含めて(そして当然昔から応援してくれているファンへの感謝の思いとしても)、はじめてのドームコンサートで、映像化されることを見越してJr.時代の曲コーナーをやったと語っていて、新しいファンとして本当に嬉しかったし、とても敏い人だなと感心もした。

 

それでもやっぱり松竹座時代の話をみんなが口にするたびに、興味があったり、羨ましかったり、すこしだけ寂しかったりしたのは本当のことだ。ファン心理というのは至極厄介なものだと思う。ファン全体みたいな顔したけど、要するに私個人がワガママでめんどうくさいって話である。

 

昨年のアマデウス、大阪公演に行くことを決めたのも、心のどこかには「松竹座」という場所に憧れみたいなものがあったというのも理由の一つだ。

松竹座での上演があることを踏まえて、桐山くんは松竹座時代の思い出や、その舞台にこういった形で立つことへの気負いをインタビューなどでたびたび口にした。それを読みながら、せっかくならその晴れの舞台に立つのを見てみたいと思い、大阪へのチケットと切符を手配し、新幹線に乗り込んだ。

はじめての松竹座は、その物々しく美しい外観にまず圧倒された。東京公演が行われたサンシャイン劇場は商業施設の中にある劇場で、そのギャップがあったことも大きい。歌舞伎の劇場だということはわかっていたけれど、実際に行ってみると他の劇場との雰囲気の違いが物珍しかったし、そもそも売店で食事を売っているのがカルチャーショックだった。幕の内弁当って本当にあるんですね。

ただ、公演自体は東京でも見ていたこと、アマデウスという演目自体に私が夢中になっていたこと、最後の観劇だったので舞台を見たりいろんなことを考えるのに集中していたこと、メンバーと観劇が被ってなんとなく客席自体が浮き足立った雰囲気だったこともあって、松竹座公演だから、みたいな気持ちは特になかった。

 

今年は舞台はないのかな。そう思わせるようなことをラジオでたびたび口にしていた桐山くんに、次の舞台が決まったのは突然だった。先輩の代役として、ずっとお世話になってきた、彼らが「ホーム」と呼ぶ劇場からの指名。桐山くんは何度も「先輩の舞台を守りたい」と口にした。

アマデウスと違って今回の公演は松竹座での上演しかなく、考える暇はなかったし、諸々の事情から申し込み期間も(これはいつもだけど)短く、というかそもそも落選したので一般でチケットを申し込んだりとバタバタと時間が流れていって、気づけば私は大阪にいた。

 

私はマリウスの筋書きをほとんど知らず、人情喜劇という言葉から勝手にそれなりのハッピーエンドを迎えるような気がしていたので、静かに崩れゆく街の均衡に、身も世もなくボロボロと泣いた。暑いからタオルハンカチを持ってきて良かったって、ぎゅうと握り締めながら思った。ありがたいことに複数回観たけれど、観るたびに同じところで、そして違うところで頭が痛くなるほど泣きじゃくっていた。

基本的に私は誰に感情移入するわけでもなく、交錯する想いに、すれ違うひとびとに、ままならない展開に心を動かされていたけれど、ひとつだけ、ストーリーとは関係なく泣いてしまったシーンがある。

 

二幕、マリウスから父、セザールへの手紙をファニーが読み上げるシーン。

マリウスが歌いだす。夜の海の上、月明かりだけに照らされて。遠いマルセイユの街にいるファニーと重なり合う声。

僕は今、幸せです。あなたの幸せが幸せなの。

ふたりの幸せが重なって、やがて舞台にはマリウスだけが残される。

 

マリウスは船の上にいた。

セット転換の為に、薄い幕が下ろされた舞台。真っ暗な舞台の中、そこには、スポットライトに照らされた、マリウスが、桐山くんがたった一人居た。

マリウスのソロ。マルセイユを出ることを選んだマリウスの、後悔やファニーへの想いを切々と歌い上げる、悲しいけれど力強い声。

 

私、今、松竹座に立って、歌っている桐山くんを見ているんだ。

私にとって最後のマリウスの観劇時、あの瞬間、私はストーリーの中に生きるマリウスではなく、私の好きなアイドルの桐山くんを見ていた。ふと自分の中の立ち位置が「ファンである私」に収まって、いろんなことが頭をよぎった。アリーナの、そしてドームの、大きなステージで歌うきらきらしたアイドルの桐山くん。桐山くんを代役にと、推挙で主演を任されたこと。昨年のアマデウス。映像の中でしか見たことのない、デビュー前のぎらぎらした桐山くん。

すべての景色が重なって、桐山くんを見ながらじわじわと目頭が熱くなった。うつくしい人だと思う。素敵な人だと思う。大好きな、アイドルだ。

 

彼が、彼らがホームと呼ぶ場所で、座長公演というすてきな夢を見られたこと。うれしかった。過去には決して遡れないけど、今好きであることは確かで間違いのないことだった。ファンをすることなんてどこまでも自己満足で、その自己が満ち足りるようなものを見られたことを、どうしようもなく幸せに感じた。

 

お芝居がしたい、歌が歌いたい、いろんなことをやってみたい。夢と愛に揺れるマリウスの人物像を語るとき、桐山くんは「僕もいろんなことがやりたい人だから」と自分を評した。

桐山くんが見せてくれる夢はいろんな色をしていて、そのどれもがすごくきれいだ。一歩ずつ踏みしめるように進み、夢を叶えてゆく桐山くんを見て、ファンってなんて楽で、楽しくて、苦しくて、浅はかで、幸せなんだろうとたびたび思う。

 

明日には違う人に夢を見ているかもしれないし、ファンなんて、オタクなんて、私なんて、とんでもなく身勝手な生き物だ。それでも、すごく楽しい夢を見せてもらったから、しょうもない夢日記を形にしたかった。エゴ丸出しで、ごめんね。

 

 

暑い日が続きますが、体には何卒気をつけてください。これからも、たくさんの夢を見て、見せていただけますように。今後のますますのご活躍を、心よりお祈りしております。敬具。

 

2018年6月30日 私より

アマデウス覚書、またの名を虫食いクイズ②

アマデウス覚え書きその②

後宮からの逃走~1幕終わりまで。

いよいよ虫食いクイズの様相を呈して参りますので、答えにお心あたりのある方はどしどし回答お寄せ下さると嬉しいです。

また、その他ご指摘事項などございましたらよければ教えてください。

 

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アマデウス覚書、またの名を虫食いクイズ①

アマデウスを観劇し、どうにか思い出せるように形に残しておきたかったゆえの覚えてる範疇の文字起こし、ないしストーリーの概容になります。

私の記憶の抽出のため、間違っているところが多分にあると思うので、ご指摘いただければうれしいです。話半分に見てください。

ところどころ聞き取れなかった言葉(主にイタリア語、ドイツ語や、音楽用語等)が虫食い状態で表記されているため、お心あたりのある方は教えていただけると嬉しいです。

 

冒頭~サリエーリ、モーツァルトはじめての顔合わせまで。

 

1823年、晩秋のウィーン

噂をする町の人々。さざ波のようにどこからともなくサリエーリの名を呼ぶ声が響く。

ウィーンの街を騒がせる一大スキャンダル。サリエーリがモーツァルトを暗殺したとの噂。しかもその噂の出処は、サリエーリ自身による罪の告白だという。しかし一体、何故32年も前のモーツァルトの死をサリエーリが告白したのか?人々はその真相を確かめるべく、サリエーリの召使を問い詰める。

 

男たち「吐け」「吐け!」「お前の主人は何を言っている?」「お前の主人は夜毎何を叫んでいる?」「さぁ言え!」「言うのだ!」

 

あたりに響き渡るサリエーリの叫び声。

 

男たち「モーツァルト、すまなかった」「許してくれ、君を暗殺したことを」

街の人々「暗殺!」「暗殺!」

 

ざわめく街の人々。舞台場真ん中に位置する人影にスポットライトが当たる。それは車椅子に乗った年老いたサリエーリである。

召使いに明日6時に来るよう申付けるサリエーリ。驚き慌てふためく召使達を見て、「明日の朝にはもっと驚くことになるぞ」とにやりと笑うサリエーリ。

 

観客席に向かって語りかけるサリエーリ。観客を「亡霊たち」と呼び、姿を見せるように乞う。亡霊を呼び出すため、ピアノを弾き歌うサリエーリ。電気が明るくなり、客席が浮かび上がる。(=亡霊が姿を見せる)

 

姿を見せた亡霊たちに向かって、サリエーリは語る。彼がいかにしてウィーンで最も成功した若き音楽家になったかを。

平凡なる田舎町の、商人の家に生まれたサリエーリ。商売繁盛を祈る両親と違い、彼が神に望んだのは音楽家としての名声だった。幼き日のサリエーリは神に契約を求める。「神を讃えること、生涯私利私欲ではなく、人のために仕え、清廉に生きることと引き換えに、音楽家としての名声を与えよ」と。

その望みは叶えられ、それからすぐにサリエーリはウィーンにいる親戚のもとへと引き取られ、音楽の道へと進むことになる。そして皇帝の覚えもめでたく、サリエーリはウィーンで宮廷音楽家として確固たる地位を築いた。

 

「そしてわしがウィーンへ来たのと同じ頃、ヨーロッパ各国を演奏旅行し、12歳にしてその名を轟かせた男がいた。彼の名は、ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト!」

「アントニオ・サリエーリ最後の大舞台。題して、『モーツァルトの死、そしてわしが本当にそれをやったのか』」

 

「時は1781年、ウィーン!」

舞台は過去のウィーンへ、サリエーリが纏っていたマントを脱ぎ捨てると、溌剌とした若き青年時代のサリエーリへと変貌する。

宮廷や人々の紹介。根っからの宮廷人であるヨハン・シュトラック侍従長。大のイタリア贔屓のフランツ・ローゼンベルク伯爵。堅物でフリーメーソンの熱心な信奉者である、ファン・スヴィーテン男爵。

宮廷楽長を務めるボンノ、サリエーリの妻であるテレサ、サリエーリの弟子であり、サリエーリ意中の女性である、ソプラノ歌手のカテリーナ・カヴァリエリ。

彼らを含めた人々の活躍を後の世に伝えるのは、音楽にほかならないとサリエーリは語る。当時の音楽家は確かに召使、ただし、教養ある召使であったと。しかしながら、誰が誰に本当は仕えているのか?皮肉っぽく語るサリエーリ。

 

場面は変わって、モーツァルトが来るとざわめく宮廷。

「彼のオペラ、『クレタイドメネオ』を聞いたが素晴らしかった。真面目でいい作品だ」と語る男爵。

「よく出来てはいたが、あの若造、レオポルド・モーツァルトの息子、背伸びをしている。音符が多すぎる」と語る伯爵。

「陛下より、モーツァルトにオペラを委嘱せよ。ドイツ語のオペラだ」と、侍従長より皇帝の命が伯爵へと申し伝えられる。

 

伯爵「ドイツ語のオペラ?なぜです、オペラと言えばイタリア語でしょう」

侍従長「陛下は平易な母国語によるオペラをお望みだ。これは命令である」

伯爵「なんにせよ、あの若造とはいずれ厄介なことになりそうですな。天才というのは得てして面倒なものだ」

サリエーリ「父親はレオポルド・モーツァルトザルツブルク大司教に仕える、ヤマっけのある音楽家だとか。しかしながら、神童も二十歳すぎればなんとやらとも言いますな」

笑いあう伯爵とサリエーリ。二人のイタリア語での会話に憤慨し、去ってゆく侍従長。伯爵も場を去り、続いて去ろうとした男爵が去り際にサリエーリに話しかける。

 

男爵「先日は年老いた音楽家の年金を決める委員会に出席してくれてありがとう。君は素晴らしい人物だ、アントニオ。ぜひフリーメーソンに入会してほしい。要望があれば、私の支部に登録するよう口添えもしよう」

サリエーリ「身に余る光栄です、閣下」

男爵「よせ。もしかしたら、若いモーツァルトにも声をかけるかもしれん。まぁ、あの男の人柄次第だがな」

 

当時の有力者たちはほとんどがフリーメーソンに所属していた。さらに、男爵の支部は中でも華やかだと喜ぶサリエーリ。

 

サリエーリ「しかし、若いモーツァルトについては正直に言って警戒心を抱いた、奴はあまりに評判がよすぎる」

風(サリエーリの使いで街で色々な噂を集めてくる男ふたり)を呼ぶサリエーリ。

 

風「5歳で作曲をはじめ」「10歳で交響曲を」「12歳ではオペラを1本」

サリエーリ「やつはウィーンにいつまでいるつもりなんだ?」

風「いつまでも」「ここに住む気です」「下宿先はウェーバー夫人のところ」「淫らな女で」「娘が1ダース」「モーツァルトはその娘のアロイジア・ウェーバーに惚れていたが」「アロイジアはモーツァルトを袖にした」「そして今はその妹のコンスタンツェと婚約中」

サリエーリ「自分を振った女の妹と婚約したのか!…モーツァルトに会ってみたいな」

風「それならば」「モーツァルトは今夜ファン・スヴィーテン男爵の家の演奏会に」

サリエーリ「そうか、それでは私も行ってみよう」

 

演奏会へと向かうサリエーリ。

サリエーリ「そしてこの夜が、私の運命を大きく変えることとなる」

 

ファン・スヴィーテン男爵邸にて。

演奏会が行なわれるのとは別の間にて、菓子を食べるサリエーリ。背もたれの大きな椅子に座っているため体がすっぽりと隠れ、部屋に入ってきたものにはサリエーリの姿が見えない。

甲高い叫び声を上げながら、突如部屋へと入ってくる二人の男女。ネコとネズミの真似事をして、下品な冗談ばかりを口走る。

 

 

モーツァルト「ねぇ、トルァツーモってなーんだ?」

コンスタンツェ「え?」

モーツァルト「トルァツーモ!逆さまにしてごらんよ!」

コンスタンツェ「トルァツーモトルァツーモ…モーツァルト!」

モーツァルト「ピンポーン、キミは結婚したら、ェツンタスンコ・トルァツーモになるんだ~」

コンスタンツェ「イヤよそんなの!」

モーツァルト「ダァメだよ~!ボクは結婚したら、なんでもサカサマにしたいんだ!だから」(コンスタンツェの腰を掴み)

コンスタンツェ「キャッ」

モーツァルト「顔じゃなくて、お尻にキス♡」

コンスタンツェ「やぁだ、もう!」

 

ケラケラと笑うモーツァルト。ため息をつくコンスタンツェ。

 

コンスタンツェ「でもこの分じゃ、顔にもお尻にもどっちにもキスできないんじゃない」

モーツァルト「どうして?」

コンスタンツェ「アンタのパパ、結婚を許してくれそうもないじゃない」

モーツァルト「おやじの反対なんて、知るもんか」

コンスタンツェ「そんなこと言って、パパが怖いくせに」

モーツァルト「そんなことないもーん」横向きに寝っころがり、足を開いては閉じる仕草。

コンスタンツェ「結婚なんてできっこないわ」

 

モーツァルト、立ち上がり、跪く。

 

モーツァルト「結婚して」

コンスタンツェ「バカね」

モーツァルト「結婚して」

コンスタンツェ「本気なの?」

モーツァルト「本気さ。今すぐ返事して!(コンスタンツェの手を取り)ボク、結婚したら」

コンスタンツェ「うん」

モーツァルト「結婚したら」

コンスタンツェ「うんうん」

モーツァルト「そしたらボク、家に帰ってベッドの上でウンコしてうんやったー!って言ってやるんだ~!」

 

笑い転げるふたり。やがて召使が呼びに来る。

 

召使「奥様がお呼びです!」

モーツァルト「あ、そう」

 

立ち上がり、コンスタンツェの手を取る。

 

モーツァルト「行きましょうか、フロイライン・ウェーバー。音楽が待っています」

コンスタンツェ「ええ、行きましょう。トルァツーモさん!」

 

ゲラゲラと笑いながら立ち去るふたり。頭を抱えるサリエーリ。

やがて音楽が聞こえてくる。その響いてきた音楽のあまりの素晴らしさに打ち震えるサリエーリ。

その素晴らしすぎる音楽を聴くことに耐えられず、夜の街へと飛び出すサリエーリ。星空を見上げながら、神へと問いかける。

 

「なんなのですか、あの音楽は!まさか、まさかあれは、あなたがお求めの曲なのか!」

 

震えるサリエーリ。街にかすかに響く音楽に追い立てられるように、家へと戻る。

 

あの日から、あの音楽を忘れようと仕事に打ち込むサリエーリ。弟子を増やし、休むまもなく働き続ける。そして一方で、モーツァルトの楽譜を収集し続ける。しかしモーツァルトのほかの曲は、よくできているがありきたりでつまらないものだった。

そこで「あの曲はまぐれ当たりだったのかもしれない、どんな作曲家でもひとつは素晴らしい物を作ることがある」と安堵を覚えるサリエーリ。モーツァルトに会い、ウィーンへようこそと言ってやろうと思い立ち、モーツァルトが来るという宮廷へと向かう。

 

宮廷にて。集まっている皇帝、侍従長、伯爵、男爵らの面々

モーツァルト歓迎のための行進曲をつくって来たと皇帝に申し出るサリエーリ。皇帝の許可を受け、その曲を演奏する。

飛び跳ねながら、部屋へと入って来るモーツァルト。はしゃぎまわるが周囲の人々にたしなめられ、叱られた子供のように大人しくしてみせる。しかし曲を聴いているうちにステップを踏み出し、また怒られてしまい、しーっと口に手をあててみせるモーツァルト。曲が終わると大げさなまでに拍手をする。

 

皇帝陛下の手に挨拶のキスを何度もするモーツァルト

「くすぐったい、そう興奮したもうな」と皇帝に言われる。

 

皇帝「久しぶりだな、モーツァルト。この者は昔この宮廷に演奏に来ているのだ。その話はもうしたかな?」

他の面々「いいえ、陛下!」

皇帝「あれは彼がほんの6歳のときのことだった。この宮廷の床ですってんころりんと転んでしまってな」

モーツァルト、けたたましい笑い声をあげるもはっと口をつぐむ。

皇帝「助け起こしてやった私の妹、マリー・アントワネットの頬にキスをしてこう言ったのだ。「ぼくのお嫁さんになって!」と」

モーツァルト、甲高い声で笑い出す。

皇帝「こらこら、そんなに照れるでない」

モーツァルト「えっ?」

驚くモーツァルト

 

皇帝「皆とはもう顔見知りだな」

モーツァルト「もちろん!」

各人の前で大げさにお辞儀をするモーツァルト

皇帝「サリエーリは知っているかね?」

サリエーリ「まだです、陛下」

皇帝「おお!ウィーンで音楽の道を志すものが、いやしくもサリエーリを知らないとは。手落ちだったな。紹介してやろう」

サリエーリを紹介されるモーツァルト。歓迎の曲を作ったのもサリエーリであると説明される。

侍従長「次々に楽想が湧き出て来るようで」

サリエーリ「いえいえ、ほんの思いつきでつくったものでございます」

皇帝「すばらしいぞサリエーリ」

モーツァルト「ありがとうシニョーレ!」

 

皇帝「ところで、オペラの話はどうなっている?」

モーツァルト「ああ、お話をいただけるなんてありがき光栄です。脚本ならもう見つけました、すっごく面白いんですよ!」

伯爵「何、脚本が決まっただと?聞いていないぞ!」

モーツァルト「はい、言うほどのことでもないかと思ったので…」

伯爵「ワシにとっては大事な話だ!誰の脚本だ!」

モーツァルト「シュテファニーです」

伯爵「それはいかん、アイツはダメだ!」

モーツァルト「でも面白いんですよ!」

皇帝「それで、どんな話なのだ?」

モーツァルト「それがですね、それがですね!…ちょっとばかり、エロ」

皇帝「エロ?」

モーツァルト「ハイ、舞台が後宮なんです」

侍従長「トルコのか!」

伯爵「それが国立劇場にふさわしい舞台だと思うのか!」

伯爵の方に否定、皇帝の方に肯定を繰り返すモーツァルト

モーツァルト「ハイ!あ、いいえ。いや、ハイ!いいえ!いいえ!あ、ハイ!…どうしてですか?とってもおもしろいのに。女が裸になるわけでもない。ボクはね、このオペラでドイツ的美徳を描きたいんですよ」

サリエーリ「失礼だがドイツ的美徳とは?私は外国人なものでわからなくて」

皇帝「イヤミな男だな、サリエーリ。それで、どうなのだ?モーツァルト

モーツァルト「愛ですよ。今までオペラで描かれたことのない、愛がテーマです」

サリエーリ「オペラはそもそもつねに愛がテーマでは?」

モーツァルト「ボクが言ってるのはもっと男らしい愛のことですよ、。男がソプラノのキーキー声を張り上げたり~(ビブラートきかせる)、バカな恋人たちが目をむいたり。あんなのは、イタリアのうそっぱちだ!」(この言葉を聞いて喜ぶ侍従長、睨みつける伯爵)

皇帝「完成を楽しみにしておるぞ」

侍従長に握手を求められ、応じるモーツァルト

男爵からも、フリーメーソンに誘うと声をかけられる。

 

残されたモーツァルトとサリエーリ。

サリエーリ「君のオペラの成功を祈っている」

モーツァルト「ありがとうございます!歌手はもう見つけたんですよ。カテリーナ・カヴァリエリっていう女の歌手です。あ、ほんとはドイツ人なんですけどね。箔をつけるためイタリア訛りにしてるんですって」

サリエーリ「ああ、知っているとも。私の愛弟子だ」

 

サリエーリ、モノローグ。

(私はカテリーナに手を出さなかった、しかし他の男が手を出すのは許せなかった、特に、この男は。)

 

モーツァルト「あなたってなんかいい人だな、僕のためにこんなかわいい曲まで作ってくれちゃって」ヒラヒラと楽譜を振ってみせる。

モーツァルト「覚えてるか弾いてみていい?」

サリエーリ「ああ、いいとも」

ピアノでサリエーリの作った行進曲を弾くモーツァルト。半ばまで弾き終わると「あとは同じだね?」と無邪気に問いかける。

弾き終わり、拍手をするサリエーリ。

サリエーリ「素晴らしい記憶力だ」

モーツァルト「ちょっと待って!…ここの三度のところうまくいってないね、(弾いてみる)四度にしてみよっ」

サリエーリの曲を改変して弾くモーツァルト

モーツァルト「ああ…よくなった」

だんだんと演奏に興が乗ってゆき、大胆にアレンジしてゆくモーツァルト。一方でサリエーリの表情は曇ってゆく。

目が合い、わざとらしく笑い合う2人。

 

曲が終わり、そそくさと立ち去ろうとするサリエーリ。

モーツァルト「あなたも何か変奏曲をためしてみてよ!」

サリエーリ「申し訳ないが、皇帝に呼ばれていてね」

モーツァルト「ああ…。じゃ、さよなら、ありがとこれ!」

楽しそうに去ってゆくモーツァルト

 

サリエーリ「このときだった、私が奴を初めて殺そうと思ったのは。芸術のこととなれば話は別だ。しかし、私は直接奴に危害を加えるようなことは何もしなかった。少なくとも、この時はこのときは」