アマデウス覚書、またの名を虫食いクイズ②
アマデウス覚え書きその②
後宮からの逃走~1幕終わりまで。
いよいよ虫食いクイズの様相を呈して参りますので、答えにお心あたりのある方はどしどし回答お寄せ下さると嬉しいです。
また、その他ご指摘事項などございましたらよければ教えてください。
後宮からの逃走の上演。
サリエーリ曰く、「趣味の悪い服で」現れるモーツァルト。(金地に花柄の服)
カテリーナが出てくるのを苦々しく眺めるサリエーリ。
サリエーリ(アリアは十分も続き、結局のところ何もなかった。いかにもバカな若いソプラノ歌手が気に入りそうな曲だ。そして、あの男がそれと引き換えに何を要求したのかはわかりきっている。あの男は、カテリーナを、モノにしたのだ)
上演終了後。
皇帝「素晴らしいぞ、モーツァルト」
オペラの主役としてカテリーナを紹介するモーツァルト。カテリーナ、走り寄りモーツァルトと嬉しそうに抱き合う。二人の抱擁を遮るように割って入るコンスタンツェ。
モーツァルト、コンスタンツェを見ると嬉しそうに腰を抱く。
モーツァルト、皇帝らにコンスタンツェをフィアンセだと紹介する。嬉しそうなコンスタンツェとは裏腹に、驚きショックを受けるカテリーナ。コンスタンツェが皇帝らに挨拶をする間モーツァルトに詰め寄るも、投げキッスで流されてしまうカテリーナ。
モーツァルト「どうでしたか、お気に召していただけましたか」
皇帝「うむ。素晴らしかった。ただいささか、何と言ったらいいかな、そのー、どうだ、伯爵」
伯爵「いささか、音符が多すぎますな」
皇帝「そうだ、音符が多すぎる。わかるな、モーツァルト」
モーツァルト「わかりかねまぁす」
皇帝「ん?…音符が多すぎる、それ以外はよくできていた」
モーツァルト「多すぎも少なすぎもしません。この音楽に必要な音符の数です、陛下」
皇帝「…あ、そうね」
去ってゆく皇帝ら以下の面々。
立ち去ろうとするサリエーリを呼び止めるモーツァルト。
モーツァルト「サリエーリさん!…陛下はお怒りになったのかな」
サリエーリ「そんなことはない。陛下は君の見解に敬意を示したんだ」
モーツァルト「アハハ!それならよかった。…どうでした?あなたは気に入りましたか?」
サリエーリ「そうだな…その、いいところは色々あった。その部分は実によかった」
モーツァルト「他のところは?」
サリエーリ「そのー、少々やりすぎだ。たとえばカテリーナのアリアとか」
モーツァルト「アハハハハ!カテリーナはなんでもやりすぎるんだ、激しいんですよ、いつでも(コンスタンツェの方を見て口をつぐむ)」
サリエーリ「シュバリエ・グルッグは言っている、作曲家の力量をひけらかすような曲を作るべきでないと」
モーツァルト「グルッグ?あいつはバカだ。グルッグが言ったグルッグが言ったシュバリエ・グルッグ!ボクだってシュバリエ(騎士)さ、まだおねしょしてるときにシュバリエの地位をもらったんだ!オペラの近代化を唱えたのに彼の描く人間たちはどうだ、大理石のウンコでもしそうさ!地位に奢るやつはみーんな屁みたいなやつらだ!」
サリエーリ「…宮廷音楽家というような?」
モーツァルト「アッ…!いっつも親父に言われるんです。お前は余計なことを言いすぎる、口に封をした方がいいって」(口に封をしてみせるモーツァルト)
サリエーリ「何、少し嫌味を言っただけだ。それより君、あちらの可愛らしいお嬢さんに私を紹介してくれないか?」
モーツァルト「!」(喋ろうとするが口に封をしているため喋れない仕草、コンスタンツェにほどくようジェスチャーで訴える)
コンスタンツェ「やだぁ、もう」(解くコンスタンツェ)
モーツァルト「べろべろばー!」
笑い合うモーツァルトとコンスタンツェ、サリエーリの視線に気づき我に返り。
モーツァルト「彼女はフロイライン・ウェーバーです。コンスタンツェ、こちらは宮廷音楽家のサリエーリさん」
コンスタンツェ「はじめまして、閣下」
サリエーリ「君はソプラノ歌手、アロイジア・ウェーバーの妹さんだね?お姉さんも綺麗だが、君はさらに美しい」
コンスタンツェ「最高!」
サリエーリ「ところで結婚は?まだなのかね?」
モーツァルト「まだなんです(コンスタンツェの方を見て焦ったように)父が許してくれなくて」
サリエーリ「失礼だが年齢は?」
モーツァルト「26です」
サリエーリ「なら父親の許しはいらないだろう。幸せになりなさい、君は類稀なる宝物を手に入れた(コンスタンツェの手の甲にキス)」
コンスタンツェ「さいっこう!」
はしゃぎながら去って行くモーツァルトとコンスタンツェ。
サリエーリ(私はモーツァルトの腕にもたれかかるコンスタンツェを見ながら、そうだ、彼女をモノにしてやればいいのだと思った。…恐ろしいことを考えた!こんな罪深いことを考えたのは生まれて初めてだ!)
風「2人は結婚した!」「新しい家は(住所)」「上等だ、金がないことを考えれば」
サリエーリ「金がない?」
風「やつは浪費家で収入以上の金を使ってしまう」
サリエーリ「弟子はいるんだろう?」
風「弟子は三人」
サリエーリ「たった三人?」
風「これから金が入る見込みもない」「奴は敵ばかり作っている」「仲良くしようとしていた侍従長閣下にも嫌われた」
サリエーリ「侍従長にも!?」
風「あれは宮廷楽長ボンノの家でのこと」
ボンノ邸にて。
酒を嗜み、すでに酔っ払っているモーツァルト。
モーツァルト「ここに来てから全然仕事がない。僕はもう仕事なんてさせてもらえないんだ」
侍従長「そんなことはない」
モーツァルト「あなたも知ってるでしょう?この街はイタ公どもに支配されているんだ。宮廷楽長ボンノがそう」
侍従長「キミ、ここは彼の家だぞ!」
モーツァルト「宮廷音楽家のサリエーリもそう!」
侍従長「やめたまえ!」
モーツァルト「彼の新作オペラ聴きました?煙突掃除夫」
侍従長「ああ、もちろん聞いたよ」
モーツァルト「(ピアノを弾きながら)パンポンパンポン♪とにかくドミナント、とにかくドミナント、この繰り返し!…サリエーリってもしかして、音痴?」
モーツァルト「(トルコ行進曲を弾きながら)イタリア人ってどうして複雑な音楽を怖がるんだろう、( )なんか聴かせようもんなら失神しちゃいそう!あぁ、なんていやらしい!」
風、目配せをしあうとそっとモーツァルトに近づき、後ろからモーツァルトに目隠しをする。
モーツァルト「あっ!誰だ、何するんだよお。見てろよぉ!」
目隠しをしたままピアノを引き続けるモーツァルト。それを見て喜ぶ風の二人、侍従長。
モーツァルト「(ピアノを弾き終え)ここの宮廷音楽がつまんないわけだよ」
(伯爵が現れる)
侍従長「口を閉ざしなさい!」
モーツァルト「ズボンを下ろしなさい!…冗談ですって。(振り返り、伯爵に気が付く)うわ!ガマガエルそっくり!」
モーツァルト「あなたがた上の人にはお金の心配なんてわからないかもしれないですけどね。サリエーリには弟子が50人、ボクにはたったの3人。これでどうやって暮らしていけっていうんです?ボク、結婚してるんですよ?…皇帝が陰でなんて呼ばれてるか知ってるでしょ?…ケチケチカイザー!」
モーツァルト「ごめんなさぁい。…冗談ですよぉ、言ったらいけないってわかってるんだけど。ねえ、ボクたち、いいお友達でしょう?」
モーツァルト「ねえ、待ってよおじさーん!あっごめんなさぁい」
立ち去ろうとする伯爵。
モーツァルト「あ、ねえ、ちょっと待ってくだい!監督閣下、まずはお手にキスを。…お願いします、僕に仕事をください」
伯爵「それはワシの権限外でな」
モーツァルト「エリザベート王妃が家庭教師をお求めだと伺いました。それに僕を推挙してくだされば…」
伯爵「残念ながら、それは宮廷音楽家サリエーリが推挙することだ」(モーツァルトにキスをされた手の甲を拭う)
モーツァルト「ねえ、知ってるんでしょう?この街で1番の音楽家がボクだってこと」
伯爵「さぁ、な」(手に息をふっと吹きかけ、ひらひらと振る)
モーツァルト「くそッ!(フラフラと床に置かれた酒瓶に近づくも、足がもつれて追い越す)…あっ、どこいくんだよお。…イタ公、イタ公、エテ公、キキーッ!」
モーツァルト「おしっこ うんこ お(チーン)こ もう行こ~」
舞台は変わり、男爵邸。
サリエーリ(その日私はまたしてもファン・スヴィーテン男爵邸で菓子を食べていた。…いまわしき出会いの場だ)
部屋へと騒ぎながら駆け込んでくるコンスタンツェと2人の男。それぞれ顔には仮面をつけている。
男「ゲームは僕たちの勝ちだ!」「罰を受けてもらうぞ!」
コンスタンツェ「なによぉ、罰ってぇ」
男「足の長さを計らせてもらう!」(尺を取り出し)
コンスタンツェ「やだぁ!何か他の罰にしてよお!」
男「やらないならもうゲームに入れてやらないぞ」
コンスタンツェ「…もう、仕方ないわねえ」(テーブルの上に立つ)
男「押さえてろ」
コンスタンツェ「押さえなくていいわよ!」
男「ダメダメ、これも罰なんだから!」
コンスタンツェ「もうっ!」
男「いくぞぉ!」(コンスタンツェのスカートの中に定規を入れる)
コンスタンツェ「やだ、くすぐったい!」
男「膝から下は50センチ!」「次は僕の番だ!」
コンスタンツェ「なにそれずるいじゃない!」
男「ずるくない、君は僕にも負けたんだから」「次は足の付け根からだ」
コンスタンツェ「やだ、それはほんとにやめてよぉ!やだ、くすぐったい、アハハハハ!」
部屋へと入ってくる仮面をつけたモーツァルト。
モーツァルト「コンスタンツェ!…今すぐテーブルから降りなさい!」
男「モーツァルト、これは単なる遊びなんだ」
モーツァルト「お二人はどうかお引取りを」
男「モーツァルト…」
モーツァルト「どうか、お引取りを!」
モーツァルトの剣幕に押され、立ち去る男たち。
モーツァルト「キミは自分が何をしたのかわかってるのか!?」
コンスタンツェ「なによ」
モーツァルト「新妻が人前でほかの男に足を触らせるなんて!キミはふしだらな女になりさがったんだ!」
コンスタンツェ、モーツァルトに対しそっぽを向く。
モーツァルト「キミはボクに、恥をかかせたんだぞ!」
コンスタンツェ「アタシが?あなたに恥を?」
モーツァルト「そうだよ!」
コンスタンツェ「恥をかかされたのはこっちよ」
モーツァルト「はぁ?」
コンスタンツェ「自分の生徒にはみーんな手をつけちゃって、残ったのはたった3人!」
モーツァルト「! な、名前を言ってみろ!」
幾人かの女性の名前を挙げるコンスタンツェ。
コンスタンツェ「それからあの女…カテリーナ・カヴァリエリ!あの女狐、本当はあなたの弟子じゃなくてサリエーリの弟子だったのよ!」
モーツァルト「そ、そうだっけ」
コンスタンツェ「そこなんだわ、あなたとあの人の違いは。あの人は弟子がたくさん。当たり前よね、あの人は生徒をベッドに引きずり込んだりしないもの」
モーツァルト「アハハハハ!当たり前だよ。だってアイツ、もう勃たないんだもん」
影で聞きながら目を剥くサリエーリ。
モーツァルト「アイツの音楽聴いたことある?あれはもう勃たないヤツの音楽だよ。その点ボクは違う。ボクは勃つんだ~~♪」(棒を持ち上げながら)
コンスタンツェ「なにしてんのよ!」
モーツァルト「ボクは勃つんだ、ボクは勃つんだよ、ぺしぺし」
コンスタンツェ「やめてよもう!」
モーツァルト「ボクは勃つんだ~~!」
コンスタンツェ「…なんなのよもう、もう!ウッ、ウッ、…うわぁぁぁん!」
モーツァルト「!! な、泣かないでよ!キミに泣かれるとボク、どうしていいかわからないんだ」
泣き続けるコンスタンツェ。戸惑うモーツァルト。
モーツァルト「(棒を差し出し)…ぶって!」
コンスタンツェ「えぇ!?」
モーツァルト「ほら、ぶってよ」
コンスタンツェ「イヤよそんなの!」
モーツァルト「…泣き虫スタンツェおならがぷー!怒った拍子に漏れちゃった♪」
コンスタンツェ「やめてよ!」
モーツァルト「スカートめくるとビショビショだ♪もったいないから舐めちゃった♪」
コンスタンツェ「…いいわ、ぶってあげる」
喜び、棒を渡すモーツァルト。
コンスタンツェ「えいっ!」
モーツァルト「ああっ!もっと!」
モーツァルトの尻を打つコンスタンツェ。モーツァルトの声が響き渡ると、いたたまれなくなったサリエーリが大きな声で咳き込む。誰かがいることに気づき、あたりを見回すモーツァルトとコンスタンツェ。
サリエーリ「うおー!」(大きく伸びをする)
モーツァルト「いつからそこに!?」
サリエーリ「一眠りしていてな、今目が覚めたところだ。二人共、喧嘩かね?」
モーツァルト「ちがっ」
コンスタンツェ「そうなんですー!この人ったら、もう酷くって!」
サリエーリ「もうすぐ新年を迎える、2人とも仲直りして頭を冷やしたほうがいい。君、すまないが食堂に行ってシャーベットを取って来てくれるかな?」
モーツァルト「みんなで一緒にいきましょうよ!」
コンスタンツェ「サリエーリさんの言う通りよ。あなたが取って来て。さっきの罰よ」
モーツァルト「なんだと!」
サリエーリ「まぁまぁまぁ。…( )のシャーベットには頭を冷やす効果があるんだ」
モーツァルト「へぇー」
コンスタンツェ「アタシポンカンがいいわ」
モーツァルト「このっ」
サリエーリ「まぁまぁまぁ。…じゃあ君、彼女にはポンカンを。私には( )を頼む。それを3人で食べて頭を増やし、新年を迎えようじゃないか」
モーツァルト「わかりましたよっ!…あ、ねえねえ、後で玉突きしませんか?」
サリエーリ「玉突き?すまないが、私はやらないんだ」
驚くモーツァルトとコンスタンツェ。
コンスタンツェ「この人ってば、玉突きには目がないのよ」
モーツァルト「そうそう!ボク、音楽では失敗しても、玉突きでは絶対に失敗しないんだ!…そうだ、ボク、ビリヤードのための( )っての書いてみようかな。こんなのボクにしか書けないよ、そう、イタリア人なんかには絶対書けないんだ!」
走り去るモーツァルト。
コンスタンツェ「…とっても可愛い人なの!本当は」
サリエーリ「ところで、ご主人は経済的に困っているとか」
コンスタンツェ「ええ、そうなんです。あの人のパパったら、アタシたちのこと浪費家だなんて言うのよ!アタシだってこんなにやりくりしてるのに!買い物する時だって、こっちにしようかな、あっちにしようかなーって…あらやだごめんなさい!」
コンスタンツェ、サリエーリに向き直る。
コンスタンツェ「主人に足りないのは安定した収入なんです。宮廷に何か職はありませんか?」
サリエーリ「あいにくだが、心当たりがないな」
コンスタンツェ「エリザベート王女が家庭教師をお求めだと伺いました」
サリエーリ「本当かね?聞いていないな」
コンスタンツェ「ぜひ閣下から夫を推薦していただけませんか?」
サリエーリ「その話はまたにしよう、ご主人が戻ってくる」
コンスタンツェ「またっていつですか?」
サリエーリ「では…明日の午後、私の家で」
コンスタンツェ「……やだ、何を言って。私は新婚で…」
サリエーリ「勘違いしないでくれ、私は妻もいる身だ。何もやましいことはない」
コンスタンツェ「……」
サリエーリ「ご主人の、ためではないのかね?」
コンスタンツェ「……。…3時に」
サリエーリ「よろしい、明日の午後3時だ」
笑みを浮かべ去って行くコンスタンツェ。
サリエーリ(やった!やってやったぞ!はっきりと口に出して誘った、結婚したばかりの新妻を、家に!コンスタンツェは私をどう思っただろうか、頼れる友人か、それとも下心丸出しの男か。そもそもコンスタンツェは来るだろうか?来たらどうすればいい。私は全てを忘れるよう仕事に没頭した。そして翌日午後3時、コンスタンツェは、やって来た)
サリエーリ邸。
コンスタンツェ「ごきげんよう閣下」
サリエーリ「おおグラッツェ、シニョーレ」(使用人を部屋から追い払うサリエーリ)
コンスタンツェ「主人の楽譜を持って参りました。これを見ていただければ、主人が王女様の家庭教師にふさわしいということがわかりますわ」
サリエーリ「そうかそうか」(ピアノの上に置く)
コンスタンツェ「あの…、今見ていただけませんこと?」
サリエーリ「今?」
コンスタンツェ「早く持って帰らないと…主人が気づきますわ。あの人、写しはとらないので、それ一部きりなんです」
サリエーリ「写しはとらない?」
コンスタンツェ「はい」
サリエーリ「…まぁまぁおかけなさい。用意したものがあるんだ」
コンスタンツェ「あら、なにかしら?」
サリエーリ「あぁ、ヴィーナスの乳首だ。栗の砂糖漬けにブランデーで香り付けをしてある」
コンスタンツェ「…いりませんわ」
サリエーリ「君のために特別に用意したんだ」
コンスタンツェ「特別に…?あらやだ、それじゃあいただかなきゃ悪いわね!…おいしい!」
サリエーリ「好きなだけ召し上がれ」
コンスタンツェ「やだぁ!悪いですよ、そんな」(たくさん口に運ぶコンスタンツェ)
サリエーリ「君は本当に優しい人だ」
コンスタンツェ「優しい?私が?」
サリエーリ「ああそうだとも。君にはコンスタンツェなんて硬い名前はふさわしくない。ジェネローザ。優しい人。この名前を君に贈ろう。そして私は君のためだけに曲を作り、君に歌ってほしい」
コンスタンツェ「やだ、私もう何年も歌ってませんのよ」
サリエーリ、椅子をコンスタンツェに寄せる。少し身を引くコンスタンツェ。
サリエーリ「ジェネローザ。この名前を裏切るようなことは君はしないね?」
コンスタンツェ「奥様のことはなんて呼んでいらっしゃいますの?」
サリエーリ「妻?妻はシニョーラ・サリエーリと呼んでいるが?」
コンスタンツェ「奥様は今いらっしゃいますの?お会いしたいわ」
サリエーリ「あいにく母親のところに行っていてね、家にはいない」
コンスタンツェ「…」
サリエーリ「明日、陛下との食事会がある。そのとき君のご主人を王女様の家庭教師に推薦しよう。こと音楽のことにおいて、私の意見が通らないことはない。ただ、君が少しばかりのお返しをしてくれればだが」
コンスタンツェ「…どうすればいいのかしら」
サリエーリ「たとえば…接吻とか」
コンスタンツェ「一度きり?」
サリエーリ「一度でいいと思うなら」
サリエーリにキスをするコンスタンツェ。
サリエーリ「…それだけ?」
コンスタンツェ「…」
サリエーリ「モーツァルトのためだろう?」
更に深いキスをするコンスタンツェ。
体を触ろうとするサリエーリに抵抗するコンスタンツェ。
コンスタンツェ「もういいでしょ!」(口元を拭う)
サリエーリ「…お粗末だな、ウィーン中の音楽家が狙っている地位を手に入れようとするには」
コンスタンツェ「…もういや!こんなこと、たくさんよ!帰ります!」(楽譜を手に取り帰ろうとする)
サリエーリ「待ってくれ、待ってくれコンスタンツェ!(コンスタンツェの肩を掴み)私は朴念仁だ、君は私をこういったことに慣れた男だと思うかもしれないが本当は違う!私は音楽と、菓子一筋に生きてきた。あのときモーツァルトと一緒にいる君をみて、私もその優しさのおこぼれに預かれたらとふとバカな気を起こしてしまった、どうか許して…コンスタンツェ?」
笑い出すコンスタンツェ。
コンスタンツェ「モーツァルトが言ってた通り、あなたってほーんと、悪い男ねえ!」
サリエーリ「モーツァルトがそう言っていたのか!」
コンスタンツェ「もちろん、冗談よぉ。『イタリア人は芝居が上手いからな、気をつけろ!』って。でも、冗談とばかりは言えないわよねぇ?」
俯くサリエーリ。
コンスタンツェ「表は悩める青年、裏では古狐!あら、拗ねちゃった?ごめんなさぁい。モーツァルトが拗ねたとき、アタシお尻をぶってあげるの。そうするとあの人、とっても喜ぶのよぉ。あなたもぶってあげましょうか?」
楽譜でサリエーリの尻を軽くぶつコンスタンツェ。
サリエーリ「この、無礼な馬鹿娘!!」
驚き、固まるコンスタンツェ。
サリエーリ「…失礼。話をご主人のことに限ろう。彼は優れたピアノ奏者だが、女王様がお求めなのは声楽の教師だ。ご主人はそちらの方はどうかな?(コンスタンツェの手から楽譜を取り)…この楽譜は預からせてもらう。これを見て、あなたのご主人が家庭教師にふさわしいか判断しよう。明日、私の家に来たまえ。自分がなにをしたらいいかよく考えて」
走り去るコンスタンツェ。
サリエーリ(やってしまった!成功したのならまだしも、大失敗だ!コンスタンツェは明日私の家に来るだろうか、来たらどうすればいい、もう一度するのか、それとも心を込めて謝るか。ああ、女を脅し貫通を迫るなど、なんということだ。このような罪深いことをしたのは、生まれて初めてだ!)
サリエーリ、コンスタンツェが置いていったモーツァルトの楽譜を開く。
サリエーリ(最初はわけがわからなかった。オリジナルだというその楽譜は、書き直しの跡が一つもない綺麗なものだった。そして、理解した。音楽は全て、楽譜の上に書かれる前に、モーツァルトの頭の中で完成しているのだと。あの男は今日もこの街のどこかで、酒を飲みながら、あの奇妙な笑い声を上げているのだろう。そうしてふと思いつくまま、ビリヤードのキューもおかずに書き留めた音楽、それこそが神の求めるものなのだ)
そのまま倒れこむサリエーリ。楽譜が床へと舞う。
やがてゆっくりと立ち上がるサリエーリ。
サリエーリ「神よ!私はこれまであなたを讃え、仕事に打ち込み、弱っている友があれば助けてきた。にも関わらず!あなたが呼ぶ名前は、モーツァルト!あの下品な男!一方で私に与えられたのは、神の御声を聞き分ける力だけ。本当の音楽を聞き分ける力を持ちながら、自身は永遠の凡庸に苦しめというのですか!…なぜだ!それならば!私はあなたに闘いを挑む!今後私とあなたは敵同士だ!…神を愚弄するなだと?ふざけるな!人間を、愚弄するな!」
舞台は変わり、現在、老人時代のサリエーリへ。
サリエーリ「ここでしばし休憩を挟もう。亡霊である諸君には関係がないかもしれないが、膀胱は人間の付属物である。しばしば我々人間は、その膀胱に振り回されるのだ。特に、私のような年寄りは。…夜明けまであと1時間。続いては、神が、というより、あのコンスタンツェが私にどう答えたか。あ、そうそう。言っておくが…この物語の中で、あの男…モーツァルトは、破滅する。」
1幕終。休憩へ。